2025年7月の参議院選挙から、ようやく現代社会のあれこれを勉強してみようと思うようになり、ようやく重い腰を上げた氷河期世代をちょっとだけ外れたパート主婦が、手に取った本の感想文の記録。
今回は堤未果さんの『ルポ 貧困大国アメリカ』です。
教育、医療、戦争まで…極端な民営化の果ては? ~米国の後を追う日本へ、海の向こうから警告する!~
「教育」「いのち」「暮らし」という、国民に責任を負うべき政府の主要業務が「民営化」され、市場の論理で回されるようになった時、はたしてそれは「国家」と呼べるのか?
私たちには一体この流れに抵抗する術はあるのだろうか?
単にアメリカという国の格差・貧困問題を超えた、日本にとって決して他人事ではないこの流れが、いま海の向こうから警鐘をならしている
(本書プロローグより)
『ルポ貧困大国アメリカ』にはこのような帯がついています。
この本のキーワードは「民営化」。
私のように今まで政治に関心を持たなかった層の人間は「民営化の何が問題なのか」から分からないのだけど、この本が【本来公共事業であったものを民営化することは、どのような危険を孕むのか】を恐ろしいほどリアルに教えてくれる。
命や教育や平和など、利益を追求することを最終的なゴールとしない(ことを前提とする)分野を民営化する目的は何か、民営化した結果どのような弊害が出るのか。
リーマンショックでやたらと聞いた「サブプライムローン」とは一体何なのか、なぜアメリカは徴兵制がないのにあれだけの兵士を尽きることなく持てるのか、そいういう疑問が少しでも頭によぎったことのある人はぜひ手に取って読んでみてほしいと思います。
専門家の分かりにくい説明より、実際にその被害に引きずり込まれてしまった人の実体験を通して、その恐ろしさにページをめくる手が止まらなくなるでしょう。
この本の出版は2008年。今こそ日本で答え合わせをしてみよう。
この手の本を読みなれていない人は多いと思いますが、ありがたいことに比較的読みやすい文体と、あまりにもリアルな貧困層ビジネスの闇をリアルに伝えてくれるこの本は、読みなれていない人にも読みやすくて個人的にとてもオススメ。
著者は決して「女性が読みやすいように」と意識してルポを書いているわけではないと思うのですが、この手の本が苦手な私でも読みやすいと感じるのは、女性の書き手ならではなのかもしれないと感じます。
さて、この本の出版は2008年。同時多発テロ後にどんどん中間層が貧困層に転落し、一度貧困層に転落したらもう這い上がれない構造が定着していく流れの中で書かれました。
アメリカの後を追うように富める者はますます富み、貧しいものは転落していく二極化していく構造が日本でも進んでいる最中であることを、政治に興味はなくとも肌で感じる人は今多くいると思います。
この本で著者が警鐘を鳴らしてから17年、このまま貧困層が大企業と政治の食い物にされる資本主義をこのまま突き進んでいいのか、ちょっと遅すぎる答え合わせが今の日本で出来ると思います。
アメリカは物価が上がっているが年収も同様に上がっている!日本は物価上昇、税率上昇、なのに手取りは下がっているから「日本はダメだ!」と憤っている人にこそ読んでほしい。
日本とは比べ物にならない、ニュースでは流さない、学校では教えてくれないアメリカ社会保障費削減や弱者切り捨ての構図を、この本でリアルに感じて、他国をうらやましがる前に日本を大切にしなくてはという気持ちが芽生えるのではないかと思います。
2025年の参院選は、SNSでも過去に類を見ない量の選挙に関する投稿が飛び交いました。
個人的に思っていたほどの投票率にはなりませんでしたが、自民党が議席を減らし、参政党のような新興政党が議席を増やした結果になったのは、やっと20~40代が選挙に参加し始めたことの象徴のようで、少し救われた気になったりもしました。
反面、議席が過半数を割ったにも関わらず続投する石破総理の会見や、開票時の集計における不正疑惑などで「選挙に行っても結局自民党(財務省)の思い通りにしかならず、民意は反映されない」といドンヨリムードが昨今SNSでは漂っています。
でも2025年の参議院選挙は、あくまでも日本国民が政治に無関心であってはならないと、やっと気づけた大きな分岐点になったと思います。
この本のエピローグではこう綴られてれています。
無知や無関心は「変えられないのでは」という恐怖を生み、いつしか無力感となって私たちから力を奪う。だが目を伏せて口をつぐんだ時、私たちは初めて負けるのだ。そして大人が自ら舞台を降りた時が、子どもたちにとっての絶望の始まりになる。
現状が辛いほど私たちは試される。だが、取材を通じて得た沢山の人との出会いが、私の中にある「民衆の力」を信じる気持ちを強くし、気づかせる。あきらめさえしなければ、次世代に手渡せるものは限りなく貴いということに。
2025年の参院選の結果で、またその後の与党の「何も変わらない」ぶりに、憤りを通り越して、「選挙じゃなにも変わらない」と感じてしまった人も少なくないかと思います。
でもこのエピローグの一文【大人が自ら舞台を降りた時が、子どもたちにとっての絶望の始まりになる】は私たち母親が決して手放してはいけない一文だと思うのです。
アメリカの経済成長を羨ましがるだけでなく、その闇も見て、日本を大事にしたいという気持ちを捨てたくない、そういう気付きを与えてくれる本でした。